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療法士は脳画像を勉強する上で、脳が運動学習においてどのような役割を果たしているかを意識すると理解が深まることを「”機能”ってナニ?」の回で述べました。
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脳画像を見る多くの理学療法士にとって、最も関心の高い脳機能の一つは運動機能に関する領域ではないでしょうか?
私も最初に脳画像において同定の仕方を覚えたのは一次運動野(=中心前回=ブロードマン・エリアの4野)でした。
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ところで皆様は一次運動野という言葉を聞いて思ったことはないでしょうか?
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「一次運動野があるなら二次運動野とか三次運動野もあるのかな?」
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ちなみに学生時代に講義は寝てばかりいて、神経解剖学の追試を3回受けた私は一次運動野という言葉に社会人になってからもしばらくは疑問も感じませんでした(笑)。
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結論を言いますと、一次運動野に対して高次運動野と言われる領域が多数存在します。
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今回は、様々な運動野(一次運動野と高次運動野)が運動学習においてどのような機能を果たしているのかを説明したいと思います。
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まずは運動野の特徴を整理
通常、理学療法学において特に断りなく「運動野」という言葉が使われるときには、それは「一次運動野」を意味することが一般的です。
しかし、当サイトでは運動野は一次運動野と高次運動野を合わせた大脳皮質の運動関連領域としています。
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さらに詳しく述べると運動野とは大脳皮質のなかで以下の特徴を持つ部位のことを言います。
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- 電気刺激をすると身体のどこかに運動が起こる。
- その脳の部位が損傷すると運動の遂行や調整が困難になったり不能になったりする。または、運動を容易に開始できなくなったり意図したように発言できなくなる。
- 一次運動野、または、脊髄や脳幹の運動中枢に出力を送っている。
- 運動開始に先行して顕著な細胞の活動が生じる。
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これらのうち、一次運動野を除くその他の大脳の運動関連領域をまとめて高次運動野と呼びます。
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一次運動野
● 中心前回にあたる部位。または、ブロードマン・エリアの4野にあたる部位です。
● 運動を実行する際に運動を制御する(どの部位の筋活動をどの程度高めるか)とともに、脳の様々な部位と情報のやり取りをすることで運動の制御の仕方(どの部位の筋活動をどの程度高めるか)を記憶します。
● 一次運動野を起点する運動の経路で最も有名なのはおそらく皮質脊髄路。
● 皮質脊髄路において一次運動野から脊髄への働きかけとは①主動作筋を支配する脊髄前角細胞の活動を高める、②拮抗筋を支配する脊髄前角細胞の活動を抑制する、③動作を妨げないように脊髄反射の強さを調節する、④運動を実行した結果を体性感覚を通じてフィードバックが得られるように脊髄レベルで体性感覚の強さを調節する、というように多様です。
● どの部位の筋活動をどの程度高めるかという運動の制御の仕方を記憶するために一次運動野は、運動前野、補足運動野、帯状皮質運動野、上頭頂連合野、体性感覚野、視床、前脳基底部、視床下部、脳幹などから入力を受けています。
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運動前野
● ブロードマン・エリアの6野のうち大脳半球の外側面を占める部位です。
● 視覚情報を参考に運動を計画することに深く関与していると考えられています。
● 物品に手を伸ばして把持する際には視覚情報を参考に、①物品と自分との位置関係からどの方向に・どのくらいの距離のところへ・どのような軌道で手を伸ばすか計画する、②物品の形からどのような手の形して把持するのか計画する、といった役割を持っています。
● 歩行においては、意図して歩行を開始する、意図して歩行の加速をする、意図して歩行の減速・停止をする、意図して障害物を避けるなど、意図的な動きに先行して活発に活動するため、予期的な運動の計画に関わっていると考えられています。
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補足運動野
● ブロードマン・エリアの6野のうち大脳半球の内側面を占める部位です。
● 記憶情報を参考に運動を計画することに深く関与していると考えられています。
● 二足歩行の訓練をしたサルのニューロン活動を観察した研究では、一次運動野が歩行周期に一致して活動したり活動しなかったりをリズミカルに繰り返していた一方で、補足運動野は歩行中に持続的に活動していたそうです。この結果から、過去に学習した運動に基づき体幹や下肢の構えを作って姿勢を制御する役割を持っているのではないかと考えられています。
● 過去に学習したある一連の行為において、その行為を構成する各運動の順序や、各運動をどのようなタイミングで実行するのか計画する役割を担っていると考えられています。
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帯状皮質運動野
● ブロードマン・エリアの23野、24野にあたる部位です。
● 脳の広範な部位から入力を受けますが、特に大脳辺縁系から豊富な入力を受けることから情動と運動を結びつけることに深く関与していると考えられています。
● ハンドルを操作することでジュースが貰えること体験させたサルに対し、途中から同じハンドル操作の仕方を続けると貰えるジュースの量が徐々に減少し、その代わりに別のハンドル操作をすることで貰えるジュースの量が増やしたときの、サルのニューロン活動を観察した実験では、帯状皮質運動野が活発に活動し、サルは貰えるジュースの量が増えるように行動を選択したそうです。その後、帯状皮質運動野の活動を一時的に抑制する薬物を注入すると、サルは貰えるジュースの量が増えるような適切な行動を選択できなくなってしまったそうです。このように帯状皮質運動野は報酬が期待できるような運動の計画・選択に関わっていると考えられています。
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まとめ
● 大脳の運動関連領域を運動野と呼び、一次運動野と高次運動野に大別される。
● 一次運動野はどの部位をどの程度筋活動を高めるかなどの運動の制御に深くかかわる。
● 運動前野は視覚情報から運動の方向、運動の軌道などを計画するなど予期的な運動の制御に深く関わる。
● 補足運動野は過去に学習した運動に基づき姿勢を制御したり、一連の行為を構成する各運動の順序やタイミングを計画することに深く関わる。
● 帯状皮質運動野は報酬が期待できるような運動の計画・選択に関わる。
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いかがだったでしょうか。
自分自身としては記事を書くことでこれまで得た知識を確認するとともに整理しようと考えたのですが、まだまだ理解が不足していることを痛感致しました。
今後も、知識の確認と整理のために脳機能や脳画像に関する記事を投稿したいと思います。
最後までご覧いただき誠にありがとうございました!!
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